約 1,077,096 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/295.html
しかし意外だな。ルイズの家は王女と交流があったのか。 ということは王族と交流があるってことだな。貴族の中でも地位は高いんじゃないか? そんな家柄で魔法が使えないのは結構やばくないか?家族でも厄介者扱いされてたりしてな。貴族ってプライドは無駄に高いからありえるな。 だから貴族に拘ってるのかもしれないな。私には関係ないがな。 「結婚するのよ。わたくし」 色々考えているとそんな言葉が聞こえ現実に戻ってくる。へぇ、王女は結婚するのか。 「……おめでとうございます」 先程までの楽しそうな雰囲気は霧散しルイズは沈んだ口調で言った。何故だ?王女が結婚するんだったら普通喜ぶものだろう? つまり何か事情があるってことか。なるほどね。 突然王女が今気づいたという風にこちらを見る。気づいてなかったのか? 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」 「はい?恋人?あの生き物が?」 酷い言い草だな。しかし王女がそう思うのも無理はないかもしれない。普通人間を使い魔にするなんて思うわけないだろうしな。 「姫さま!あれはただの使い魔です!恋人だなんて冗談じゃないわ!」 ルイズが首を激しく振りながら否定する。 「使い魔?」 王女が疑問に満ちた面持ちで私を見つめてくる。 「人にしか見えませんが……」 人は人でもガンダールヴとかいう伝説の使い魔だけどな。 「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」 「好きであれを使い魔にしたわけじゃありません」 ルイズは憮然として言い返す。私も好きでされたわけじゃないぞ。 王女が突然ため息ををついた。何だか胡散臭いため息だな。 「姫さま、どうなさったんですか?」 「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……」 嘘だな。これ見よがしに私困ってますって感じを見せ付けてるじゃないか。 「いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」 「おしゃってください。あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息をつくってことは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」 「……いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。ルイズ」 じゃあお前何しに来たんだよ。 「いけません!昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」 ルイズの言葉を聞き王女はなんとも嬉しそうに微笑む。 「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」 王女が頷く。 「今から話すことは、誰にも話してはいけません」 付き合いきれないな。部屋から出るとしよう。これ以上は私を巻き込まずにやってくれ。 そう思いドアに向かって歩き出す。 「何処行くのよ、ヨシカゲ」 ルイズが私を呼び止める。 「なにやら重大な話のようだから席でも外そうと思ってな」 「いや、メイジにとって使い魔は一心同体。席を外す理由がありません」 王女が首を振りながら言う。じゃあ今の私の心はルイズが思っているのと同じなんだな。 今私はこう思っている。巻き込むな!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/881.html
キュルケとタバサは、 ルイズがレビテーションも使わずに見事地表に到達してみせたことに対して、 激しく引いていた。 2人とも何も口にせず、 ただシルフィードがバッサバッサとはばたく音しかしない。 「……………………」 「……………………」 おそらく、考えていることは一緒なのだろうが、 それを口に出すのは、何というか ……とてもルイズに対して失礼な気がして、憚られた。 しかし、その気まずい沈黙をキュルケが破った。 「………………ねぇ」 「…………………?」 「人間って、こんな高い所から飛び降りても、 動けるんだ………」 「………………さぁ」 下ではルイズが、 ゴーレムをあっさりと倒したDIOと何やら話をしていた。 これからフーケを拘束する手順でも確認しているのだろうか。 そう思い至ったら、今まで呆けていたキュルケの心に、 メラメラと自尊心の炎が燃え上がった。 自分達は、ほとんど何もしてない。 ルイズを助けるためにゴーレムと一戦したが、 ほんの3、4合だけ、交えただけだ。 これではまるで、ルイズ…ヴァリエール家とDIOが主役で、 自分たちは引き立て役みたいに見えはしないか。 そんなこと、ツェルプストー家の血を引くキュルケが 許すはずがない。 ゴーレムを失ったとはいえ、 フーケはまだやられてはいないだろう。 イタチの最後っ屁くらいのことはする可能性が十二分にある。 それなら、自分たちがそこをやってしまえばいい。 ルイズよりも先に、フーケを捕らえるのだ。 何だか横取りするみたいだが、 それはツェルプストー家とヴァリエール家では日常茶飯事だから問題ない。 フーケを捕まえれば、美味しいところも取れるし、 フーケに対する意趣返しにもなるし、 何よりルイズはさぞ悔しがるに違いない。 油揚げをさらわれて、 顔を真っ赤にして地団太踏むルイズを想像して、 キュルケはウキウキしてきた。 善は急げと、キュルケはタバサに話しかけた。 「タバサ、私たちも降りるわよ!! ヴァリエールなんかに手柄を独り占めさせてたまりますかってぇの! GOよ、GO!」 バタバタと急かすキュルケに、タバサは普段と変わらない無表情で頷いた。 タバサ自身もそうするつもりだった。 今、あの2人をフリーにしておくのは、危険だと思ったからだった。 タバサの脳裏に、ブルドンネ街での出来事がフラッシュバックした。 (無駄無駄…) あの時のルイズの威圧感に、 珍しくタバサは逃げの一手を打った。 自分たちの知らないところで、 何かとても恐ろしい事が進んでいるのではという不安が、グルグルと渦を巻く。 目の前でやきもきしているキュルケは、 ルイズに対する対抗心や、功名心でフーケと戦おうとしているが、 それに比べて、ルイズはどうだろう。 名誉だとか、貴族としての誇りだとか ……そんなものよりも、もっと俗っぽくて、 大きな野望の為に杖を振るっているような印象を受けた。 その姿勢が微かに自分と重なって、 タバサはルイズに対して、奇妙な親近感も覚えていた。 タバサはシルフィードに、降下の指示を出した。 シルフィードがきゅいと主に応じて、ゆっくりと高度を下げていく。 半分ほど下がったところで、キュルケが疑問の声を上げた。 「……あら、ルイズの使い魔がいないわ。 どこ行ったのかしら? トイレ?」 ……………いない? それを聞いて、ゾワッと身の毛がよだつ感覚が、 タバサを包んだ。 今まで積んだ経験が、やかましく警報を鳴らす。 このまま降下することは、非常にマズいことだと直感で確信し、 タバサは1も2もなく上昇の指示をシルフィードに出した。 シルフィードは忠実に主の命令に従って、下降を止めた。 ――――しかしそれも失策だった。 一時的にだが、シルフィードの体が低空で停止してしまったのだ。 「失礼、お嬢様方」 突如、その場にはいないはずの、 第三者の声がして、2人は弾かれたように後ろを振り向いた。 ルイズがいなくなったことで出来たスペースに、 1人の男が腰を掛けていた。 脚を組んで、綺麗な紅い瞳で2人を見つめているその男は、DIOだった。 いつのまにか、そしてどうやってか、シルフィードに乗り込んでいたのだ。 いきなり積載人数が3人に増えたことに驚いたのか、 シルフィードの体は硬直してしまった。 DIOが瞬間移動らしき技を使える事は、 2人は先ほどのゴーレムを見て重々承知したが、 こうして音もなく背後に迫られると、改めて脅威を感じざるを得ない。 しかし、彼は現在ルイズの使い魔であり、 自分たちサイドであるはずだ。 まさか襲ってくるなんてこと、 あるはずがない………。 DIOに対する恐怖が、そのまま微かな甘えにつながり、 キュルケに間違った行動を取らせた。 キュルケは少々キョドった調子でDIOに話しかけた。 「な………何か用なわけ? あんた、御主人様を1人きりにしちゃ 危ないんじゃないの?」こっそりと距離を取りつつそう言うキュルケに、 DIOは静かに笑って、立ち上がった。 風竜の背中は、凹凸があってバランスが取りにくいにもかかわらず、 身じろぎすることなく、しっかりと両足で立っている。 その腰には、デルフリンガーが下げられているが、 鞘に入れられていて、沈黙を保っている。 ブロンドの髪が、風に吹かれてフワフワ揺れる。 キュルケを見下ろすDIOは、 キュルケから視線を外さずにゆっくりと背中に手を回して……………… "ズジャラァアァア!!" と、どこからともなくナイフの束を取り出した。 まさに魔法のズボンだ。 ジャラジャラと金属の擦れる音を鳴らせながら、 これ見よがしにナイフを握った手を揺らすDIOを見て、 キュルケの顔から、一気に血の気が引いた。 「あ………………まじ?」 その光景に、かつての決闘の折りのギーシュの末路が連想され、 キュルケはゴクッと唾を飲み込んだ。 「突然で不躾だが…私と一曲お願いできるかな、 ミス?」 フフフ…と妖しく微笑む様は、一見冗談めかしたようにも思えるが、 放つ殺気が、これは冗談ではないということを 雄弁に物語っている。 突如牙を剥いたDIOに、 キュルケはすぐさま杖を向けようとしたが……それよりも先にタバサが動いた。 タバサが高速で詠唱を行い、杖を振っていた。 次の瞬間、質量を持った風がキュルケ越しにDIOを襲い、 DIOはシルフィードの上からドカンと吹き飛ばされた。 「エア・ハンマー……!」 空中に投げ出されたDIOが、木の葉のように落下していく。 タバサはそれをじっと眺めていた。 「…ありがと。 助かったわ」 しかしタバサはキュルケに答えなかった。 下の森へと姿を消してゆくDIOを見て、 タバサは周囲に視線を巡らせる。 果たして、森へ墜落したはずのDIOが、2人の目前の宙に浮かんでいた。 瞬間移動だ。 気付いたと同時に2人ともが詠唱を行うが、 DIOはそれを許さなかった。 「視界が効くからな……空にいられては困る。 そら、そんな魔法より、 レビテーションとやらを唱えた方がいいぞ」 からかうように忠告をした後、DIOが軽く手を振った。 DIOの体から『ザ・ワールド』が浮かび上がり、 シルフィードの顎を強打した。 鋼鉄をも粉砕する『ザ・ワールド』の一撃で 脳をシェイクされたシルフィードは、白目を剥いて気絶した。 今度は、キュルケ達の方が木の葉のように落下する番だった。 2人とも大慌てで自らにレビテーションをかけ、 そのあと、タバサがシルフィードにもレビテーションをかけた。 ゆっくりと地面に降り立った2人は互いに背合わせに構え、 隙をなくす。 すると、時間的にはまだ宙にいるはずのDIOが、 木の陰から姿を現した。 不可解な現象を疑問に思う暇もなく、 2人は攻撃魔法を詠唱した。 最初に詠唱が完成したキュルケの『フレイム・ボール』が、 唸りをあげてDIOに飛来した。 しかしDIOは、飛んでくる炎の玉を避ける仕草すら見せず、 パンパンと手を二度打った。 すると、炎の玉がDIOの体をすり抜けた。 DIOが一瞬で2人の方へと移動したからだ。 炎の玉は、虚しく空気を裂きながら、 森の奥へと消えていった。 キュルケはその光景に唖然としたが、 惚けている暇などもちろんない。 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ ハガラース……」 再び詠唱を始めるキュルケの隣で、 タバサが呪文を完成させて、杖を回転させた。 大蛇のような氷の槍が何本も現れ、 回転を始め、太く、鋭く、青い輝きを増していく。 「"氷槍(ジャベリン)"!!」 タバサの声と共に、トライアングルスペルであるジャベリンが、 DIOに襲いかかった。 それを見て、DIOは手を軽く振る。 『ザ・ワールド』が、DIOの体から浮かび上がり、 両の拳の壮絶なラッシュで、ジャベリンを迎え撃った。 「えぇい、貧弱!貧弱ゥ!」 拳と氷の槍が交差する。 『ザ・ワールド』によって亜音速で繰り出される拳の弾幕は、 ジャベリンを1本も後ろに通すことなく、 その全てをガラスのように粉々に砕いた。 トライアングルスペルが真正面からあっさりと破られ、 流石のタバサも動揺を隠せない。 攻撃の手が緩まったその一瞬の間をとって、 DIOがタバサに話しかけた。 「面白い魔法だ。 お前のような攻撃をする者を、私は1人知っている。 ………死んだがね。 もちろん私が殺した。 お前もあいつのようになりたいかな?」 タバサは聞こえない振りをした。 今や敵となったDIOの言葉など、聞くだけ無駄だと思ったからだった。 すぐに次の魔法を唱え始めるタバサだったが……… 「…やはり君は彼に似ている。 彼もそうだった。 心にぽっかり穴が開いていて、 決して満たされることがない。 心から望むものを、手に入れていないからだ。 ………違うかな?」 DIOの、心の隙間をつく言葉にタバサの詠唱が止まった。 ピンで止められたみたいに、 タバサは微動だにできなかった。 「私はそれを君に与えてやることができる。 …教えてくれ。 お前が欲しい物は……何だ?」 ―――私が、欲しい、物…………。 タバサはDIOの目を見た。 優しげな紅い瞳が、タバサを見返した。 その慈愛に満ちた眼差しに包まれて、 タバサは微かな安心を感じ始めてしまっていた。 まるで、母に抱きしめられているような安らぎを。 この人なら…………… 私の望みを叶えてくれるのではないか…? そう考えてしまうほど、 DIOの言葉は不思議な魅力に溢れていた。 ぱったりと攻撃の手を休めてしまったタバサを、 キュルケが叱責した。 「タバサ!! 何やってるの!!!」 キュルケが再びフレイム・ボールをDIOに放った。 しかし、やはりそれは瞬間移動によってかわされてしまう。 戦場で攻撃を躊躇するなど、 普段のタバサではありえないことなのだが、 キュルケの叱責をうけてもなお、 タバサは詠唱を再開することはなかった。 挙げ句の果てに、ぺたんと座り込んでしまい、 考えごとをするように沈黙している。 攻撃するのがキュルケだけになってしまい、 その結果、攻撃の間の隙が大きくなってしまった。 その隙を縫って、 DIOがゆっくりと近づいてゆく。 やろうと思えば、瞬時に距離をゼロにすることだってできるだろうに、 DIOは何故かそれをしない。 まるで時間稼ぎをしているようだった。 しかし、徐々に徐々に距離が縮まっていく様は、 逆にキュルケの神経に負担を掛ける。 それがさらなる隙につながり、ついに2人はDIOの射程圏に入ってしまった。 約8メイル。 まずい、と思う暇なく、 『ザ・ワールド』が現れた。 まさしく幽霊のような、 軌道を読ませない動き方でキュルケに迫った『ザ・ワールド』は、 その拳でキュルケの杖を弾き飛ばした。 「くっ…!」 杖を握っていた手に、鈍い痛みが走り、 キュルケは苦悶の表情を浮かべた。 「杖が無ければ、メイジはかくも無力だな。 我が『ザ・ワールド』の敵ではなかった」 もはや警戒する必要すらなくなり、 DIOはスタスタとキュルケに歩み寄った。 タバサはその傍で座り込んだままだ。 「なんで、いきなりこんなこと………! わけわかんないわよ!!」 理由もなく、突然襲いかかられたことに対する怒りから、 キュルケは怒声を張り上げた。 「残念ながら、私には答える必要がない。 ……雷に打たれたと思って、諦めるんだな」 キュルケの言葉をそう受け流し、 DIOはとどめをさすべく『ザ・ワールド』ではなく、 自分自身の手を振り上げた。 それを見たキュルケは、 直ぐに襲いかかるだろう痛みに備えて、体を硬直させた。 ―――そのとき、遠くから何かが爆発する音が聞こえた。 すると、DIOの左手のルーンがぼぅっ…と怪しい光を放ち始めた。 その光が輝きを増すにつれて、DIOが苦痛に身を捩る。 「……ッ! 良いところで茶々を入れるか…!! ………わかった。 すぐにそっちに行けばいいのだろう、ルイズ」 忌々しげな口調でブツブツと呟きだしたDIOに、 キュルケはただただ狼狽した。 暫くしたあと、DIOがキュルケに向き直った。 「『マスター』が呼んでいる。 残念ながら、ここまでだ。 もう少しだったが……まぁいい、収穫はあった」 チラリとタバサに視線を向けてそう言ったDIOは、 最後とばかりにナイフの束を取り出して、優雅に一礼した。 「途中でおいとまさせてもらう、私なりのお詫びだ。 遠慮なくとっておいてくれ」 DIOはパチンと指を鳴らした。 すると、DIOの姿が忽然と掻き消えた。 キュルケは、いきなりDIOが姿を消した事にも驚いたが、 目の前に広がる光景には更に驚いた。 何と、幾本もの鋭いナイフが、2人めがけて飛来してきていたのだ。 「ひぃぇ!?」 キュルケは情けない悲鳴を上げた。 "ドバァアー!" と、凄まじい勢いで接近するナイフを見て、いつぞやのギーシュのように、 ハリネズミになってしまう自分の姿が想像される。 しかし、そのナイフは2人に到達することはなかった。 キュルケの隣から発生した風の壁が、 ナイフを弾き飛ばしたのだ。 「ウィンド・ブレイク…」 力のない詠唱は、タバサから発せられたものだった。 魔力は精神力。 今、精神的に沈んでいるタバサでは、 いつものような烈風は起こせなかったが、 それでもナイフを弾き飛ばすには十分であった。 ガチャガチャと音を立てて落下していくナイフを見て、 安堵のため息をついたキュルケは、隣に座り込んでいるタバサを見た。 力の込もっていない瞳が、虚空を見つめていた。 タバサの杖が、コロンと転がった。 「タバサ……?」 キュルケの呼びかけに、タバサは虚ろな目をキュルケに向けた。 「………なさい」 「…え?」 「……ごめんなさい」 キュルケに視線を向けてはいるが、しかし、 キュルケではない誰かを見ているような視線で、 タバサはそう呟いた。 キュルケは一瞬、 あのとき詠唱を止めてしまったことを謝っているのかとも思ったが、 どうも違うようである。キュルケはひとまず、タバサに手を差し出して、 彼女が立ち上がるのを助けた。 しかし、立ち上がってからもタバサはただ、 ごめんなさい…と繰り返すだけだった。 それが誰に向けた謝罪なのか、 キュルケにはようとして分からなかった。 to be continued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/954.html
浮遊大陸とでも言うのだろうか、それがアルビオンを最初に見たおれの感想だ。 空にが地面が浮かんでいるのだ。飛行船が必要なのも頷ける。 「アンリエッタからの手紙は城にあるんだ。悪いけどご足労願うよ」 そう言われてはこっちもそうするしかない。 ちなみにルイズの返答は「分かりました」だった。あの変な状態は終わったらしい。 城に着き手紙を返してもらうためにウェールズの部屋に行く。 その間にあった会話によるとウェールズはこの内乱で名誉のために負けるつもりらしい。 バッカじゃねえの?名誉なんか捨てて逃げればいいのに。 部屋の中はとても質素だった。 ウェールズは机の引き出しから小箱を取り出し、自分のネックレスについている鍵で箱を開けた。 中には手紙しかなかった。アレがアンリエッタからの手紙だろう。 さて、どうやってアレを奪い取ろうかな。 なるべく穏便に、かつバレないように済ませたい。 アレが何らかの手札となる力を持っていてもまだ戦力が足りない。 なので犯人として疑われるのはマズイのだ。 今はまだ力を蓄え、ある程度対抗できるようになってからあの手紙は意味を持つ。 そのためにも『いつの間にか無くなっていた、それも何処で無くしたか分からない』という状況が一番良い。 「殿下は姫様と恋仲であらせられたのですね?」 「昔の話だ」 「トリステインに亡命なされませ!」 「それはできない」 さっきからルイズとウェールズの話は堂々巡り、終わらせたのはノックの音だった。 「パーティーの準備が整いました」 パーティー?いいね、おれも参加しよう。 パーティーはかなり豪勢だった。 理由としては、 敵は明日の正午に攻撃を開始する。だがこちらには勝ち目が無い。 だから今日最後のパーティーを開くことにしたのだそうだ。 そして明日には死ぬのだから全部使っちゃおうという考えらしい。 実に良い。死ぬ気のないおれにとっては実に良い。 だがそう楽しんでもいられない。今がチャンスだからだ。 おれはパーティー会場を抜け出し、ルイズの部屋へ直行する。 そしてルイズの鞄から例の手紙を抜き出す。 持ちにくいだろうとの配慮でウェールズが封筒に入れてくれたのだが、これがおれにとってのチャンス。 目的の方を少し折り曲げてデルフの鞘の隙間に入れる。 この前気づいたのだが鞘にはそれくらいのスペースがあるのだ。 そしてちょろまかしてきた別の封筒をルイズの鞄に入れて、ミッションコンプリート。 さあパーティー会場に戻ろう。 ルイズの部屋を出てパーティー会場に意気揚々と戻る途中でウェールズに出会う。 「おや?君は、ヴァリエール嬢の使い魔の犬じゃないか。こんな所でどうしたんだい?」 ウェールズに会ったが大丈夫。普通に言い訳が出来る場所だ。 「えーと、ちょっと夜風に当たろうと思ったんだが道に迷っちゃって」 「ああ、そうなのかい?僕もそうしようと思ってたんだ。ついて来ると良い」 やぶへびだった。 まあいいや、なんとなく気になる事もあるし聞いてみよう。 ウェールズの案内でテラスに出る。 「ふー。やはりここは風が気持ち良いな、でもここの風を感じるのもこれが最後だと思うとちょっと感慨深いね」 「よく笑えるな」 会話を楽しむ気はないのでいきなり直球を投げる。 「え?」 「明日死ぬのによく笑えるなって言ったんだ。怖くないのか?」 これが聞きたい事。明日死ぬなんて事になったら普通ではいられないのにコイツは笑っている、それが分からない。 「そりゃ怖いよ。死ぬのが怖くないわけないだろう?」 「なら何故逃げない?」 「守るべきものがあるからさ」 「名誉とか誇りとかか?捨てちまえよそんなもん」 「そういう訳にはいかない。王族である以上これは義務なんだ。それにもう逃げる場所なんて無いしね」 コイツはさっきのルイズとの会話を忘れたらしい。 「トリステインがあるだろ」 「それをすると貴族派がトリステインに攻め込む理由を作ってしまうだろう?そんな事はしたくない」 その言葉でおれは何でコイツの何が気になったのかが分かった。 ―――同じなんだ。 コイツとおれは同じ事をしている。正確にはおれの取った行動と同じ事をしようとしてる。 自分の大切な者のために自分の命を捨てる。おれは仲間でウェールズは恋人。 それをなんとなく感じたから話をしてみようと思ったんだ。きっかけは偶然だったけど。 そしてコイツの気持ちがおれには分かってしまう。 だからおれにはコイツを止められない。 「どうしたんだ?」 おれの感情の変化を感じたのかウェールズが心配そうに聞いてきた。 「いや、なんでもない……アンタの気持ちは分かった…存分に死んで来い」 これしか言えない。 だって無理矢理亡命させる事は、おれにとってあの時ポルナレフを見捨てる事に等しいからだ。 何もできない自分が情けない。 「…分かった。明日は存分に戦って死ぬ事としよう」 察してくれたようでおれには何も言ってこない。 その顔には誇りと覚悟と満足があった。 あの時の自分を見れたとしたらこんな顔なのだろうか。 そんな考えを打ち破る音がした。戦闘の音だ。 「この音は!?」 ウェールズも気づいたらしい。 「パーティー会場からだ!行くぞ!」 どうやら敵は明日の決戦予告なんて守る気は無かったらしい。 おれたちは会場に向かった。 会場では白い仮面をつけた男にルイズが捕まっていた。 「イギーか…」 倒れているギーシュが状況を説明してくれた。 パーティーを楽しんでいたら、いきなり仮面の男×4が窓を突き破って突入してきて城の人間を殺し、 今は他の三人はどこかに行き、残った一人がルイズに手紙の在り処を聞いている。 キュルケとタバサは外で一緒に攻め込んできた兵士の相手をしているらしい。 なるほど。つまりおれ達はアイツを倒して脱出しなくちゃいけないって事か。 おれはデルフリンガーを鞘から抜き、戦闘体制に入った。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1299.html
目を覚ますと強烈な疲労感に襲われた。 そして昨日の練習のことを思い出す。もう過度の練習はしない。 そういえばこの感触は何だろう?まるでベッドに寝ているようだ。首を振り隣を見るとルイズの顔が眼前にあった。大体2㎝ほど前に。 ルイズはこちらに全く気づかず穏やかに寝息を立てている。何でこんな所にルイズの顔が?意味がわからない。というかこれだけ近い寝息が五月蠅い。 とりあえず起き上がる。まだ早朝のようだ。 そして気づく。 ベッドに寝ているみたいではない。ベッドに寝ていたのだ。なんで寝てるんだっけ? そうだ。ルイズがベッドで寝てもいいとかいう考えられない発言のせいだ。 昨日は疲れて頭が働かなかったから深く考えなかったがむちゃくちゃ怪しいじゃないか! 私に泣きついたり、服を修繕したり、教えて欲しいと言ったり、貴族と同じ食卓に座らせたり、自分のベッドで寝かせたり! アルビオンに行ってから怪しいことだらけだ! でも待てよ?ルイズが貴族とは何かって聞いてきたときに、アルビオンの皇太子のことを言っていたな。 確か大衆が求める貴族になることは難しいとか言われたって。 あのときのルイズの話を思い出す限り、ルイズは皇太子に色々言われてそれに影響を受けている。 その中には、皇太子がルイズへ平民のことについて何かを話した事もあるだろう。 ルイズが言った『平民がこっちをどう思ってるか』と。それがいい証拠じゃないか。 それらを含めて考える。 もしかしたらルイズは平民について考え始めたんじゃないのだろうか? ルイズが一番初めに思いつく平民とは何か?おそらく私のことじゃないだろうか。 多分そうだと思う。何故なら今まで自分が使役してきた使い魔で、一番身近にいる平民が私だからだ。 そして私の生活を考える。 今までの自分が行ってきたことを思い出せばいいのだから簡単だろう。 使い魔といっても人だ。周囲も私のことを平民だ平民だ言ってきたから、ルイズは無理やりにでも私のことをちゃんと人だとは意識していたはずだ。 もっとも言われれば言われるほどより私を動物扱いしていたような気がするな。 きっと周囲に言われるたびに平民ということを自覚して、認めたくないから動物扱いしたんだろう。 古今東西平民を使い魔にしたメイジはいなかったらしいな。 それはともかく、私をちゃんと(?)平民として見始めたのなら生活がみすぼらしいのに気づくだろう。 毛布一枚で床に寝かされ、食事は床に座らされ質素な食事(餌)、授業も床。 普通に考えてこんな風な生活を強いる奴を慕えというのが土台無理な話なのだ。殺されても仕方が無い。 そしてルイズはこれじゃあ自分が皇太子が言ったような『大衆が求める貴族』にはなれないと思い人間らしい生活をさせようと思った。 ……かなり強引だがそれなりに説得力はある気がする。 ルイズは今まで貴族として育ってきた中で平民のことなど考えることは全くとは言い切れないが皆無に近かったはずだ。 初めから上に立って当然の生き物で、平民を知っていても自分たちに貢献するものぐらいにしか認識していなかったはずだ。 自分の中で全てが完結していたと言い切るほどだからな。 それが皇太子をきっかけに平民のことを考えるようになった。その話の何がきっかけで考えるようになったのかは知らない。 ただ、完結していたはずの世界が広がったのは事実だろう。 それで色々な試すのは当然の反応なんじゃないかと思う。知らないことがあれば知りたいし、やってみたい。人間として当然だ。 それがいい影響につながればいいがな。 しかしそれらを抜きにしてもベッドで寝れるのはいい。食事は餌でも食堂で食べればよかったしな。 ベッドから下り立ち上がる。 置いてあった帽子を被りデルフを持つとドアを開ける。 もし、さっきまでの考えが全部外れていて実はルイズが私に何らかの害をもつ考えで行動しているとしたら? ふとそんなことを考え、苦笑する。 何も問題なんて無い。 だってこいつは『ゼロ』のルイズなのだから。知識はあるが、知能は並だ。状況によっては並以下だ。 魔法も使えない貴族の甘ちゃんで並以下。 そんな奴が私に害をもたらせれるはずがない。もたらしたとしてきっと事後に解決できることだろう。 何にせよ、生活が向上するのはいいことだ。もしこれが維持されるのならば別にルイズを殺す必要も逃げる必要もないな。 私をこのまましっかり養って『幸福』の足がかりになってくれよ、『ゼロ』のルイズ。 そんな風に心の中で嘲笑しながら部屋を出た。 そして船上で見たルイズの眼を思い出し、頭を振りかぶる。 あんな眼が何だっていうんだ!あの眼に何ができる!何もできるわけが無い! そしてあの眼を頭から追い出そうと頭を振りながら昨日剣の練習をした場所へ向かった。疲れたときこそ体を動かせというからな。 練習とデルフとの会話を終え部屋へ戻る。 そしてデルフを置くと洗面器を手に取り外へ水を入れに行く。水を入れて戻ってきた頃には大体ちょうどいい時間になっているだろう。 水を入れルイズの部屋まで戻り床に洗面器を置く。 「起きろルイズ」 ルイズを起こそうと肩を揺する。 「ん~~ん」 ルイズがそれに反応するかのように声を上げる。 「起きろ」 起きるまで揺すり続ける。 「ふみゅ?」 揺すっているとようやくルイズが目を開ける。しかしまだ瞳はぼやけたままだ。 「朝だぞ。起きろ」 ルイズはむにゃむにゃと目を擦りながら起き上がり、ひとつ小さな欠伸をした。 普段から低血圧気味で寝起きが悪いが、今日は何時にも増して眠そうである。顔は少し寝たりないといった感じだ。夜更かしでもしたのかもしれない。 それでも起こすがね。 「起きるんだ」 肩を揺するとルイズはふにゃっと顔を崩したままベッドに腰掛ける。 それを確認し、ルイズの足元へ置く。ルイズの顔を洗うためだ。ルイズは私に顔を表せるのだ。もう慣れたから楽なもんだが。 手袋を外し両手で水をすくう。普段ならルイズが顔をもってくるのだが今日はもってこない。寝ているのか? しかし顔を見ると目はちゃんと開いている。眠たそうに目をグシグシと擦っている。 「おい、顔を洗わないのか?」 「そこに、置いといて。自分で洗うから、いいわ」 声をかけるとルイズは眠たそうな表情でそう言った。 「そうか」 私は素直にその言葉に従う。もう驚くことは無い。 ルイズが顔を振りながら顔を洗う様子を見ながらそう思った。というか水が飛びすぎだ。 ルイズが顔を洗っている間に着替えをクローゼットからから取り出す。そして下着と着替えをベッドに置く それらをし終えると後ろを向く。ルイズが下着を着けるのを見ないためだ。前は隠さなかったが最近になって見るなといい始めたのだ。 それ以来後ろを向いて下着を着けるのを待っている。 そして下着を身につけたのを音で判断するとルイズのほうを向く。服を着せるためだ。 しかし振り向くとルイズは慌てた様子でシーツを体に巻きつけた。 「どうした?」 「向こうむいてて」 「着せなくていいのか?」 「向こうむいてないさいって言ってるの」 そう言われまた振り向く。仕事が減って助かった。もはやルイズの変化は自分にとって好ましいものだと判断した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/919.html
翌日、ワルドたち一行は山を登り、船に乗り込んだ。途中、ンドゥールは山 の港、空飛ぶ船、浮遊大陸アルビオンに驚いていたが、まあそういうことな のだろうと一人納得していた。料金はキュルケとタバサ、のおかげで予定以 上の額を払うことになったが問題はなかったようだ。 六人は一室を借り切って、これからのことを話し合った。 「まずアルビオンに着いてからだが、真正面から城へ入ることは不可能だ」 「でしょうね。いくらこっちがトリステインからのものって主張しても追い 返されちゃうわ。もしくはその場で切り捨てられるなんてことも」 「か、勘弁してくれよ」 ギーシュがぶるると身震いした。 「だから、僕たちがするのは――」 「伏せろ!」 ンドゥールがワルドの声を遮って叫んだ。直後、船体を大きな振動が襲った。 「な、なんなの!?」 「どうやら賊のようだ。いまのは砲撃を受けたらしい。こんな空でも出るの だな」 「なに感心してんのよ! ワルド、撃退しましょう!」 ルイズがそう言うが、ワルドは首を横に振った。 「よしておこう。乗り込んできているものたちは倒せても、砲撃をなんども 食らったらこの船がもたない。それに船員や他の乗客の命もある。さすがに 守りきることはできないよ」 その言葉にルイズは渋々とだが納得した。 六人が黙って待っていると、廊下を乱暴に歩く足音が近づいてきて、彼らの 部屋の扉が開かれた。 「おや、貴族さまがこんなにいるじゃねえか。こりゃ身代金がたんまりもら えそうだ」 六人は空賊の船に連行されていった。ワルドやルイズなどメイジは杖を取り 上げられ、ンドゥールは剣と杖を取り上げられた。彼はその身なりと瞳から メイジとは判断されなかったが、念のためというらしい。 船倉にぶちこまれると、見張りに聴こえぬようにルイズは言った。 「さあ、脱出しましょう」 「どうやってだい?」 ワルドが尋ねると、ルイズはンドゥールに言った。 「できるでしょう?」 使い魔に尋ねる。水を操ることができるのだ。水筒は奪われていない。なら ば見張りを倒すことなど造作もない。しかしンドゥールは断った。 「できるが、する必要はない」 「……なんでよ」 ルイズが問う。彼女だけでなくワルド、キュルケやギーシュも疑問を持った 瞳を向けた。タバサは興味なさそうにしている。 ンドゥールは答えず、扉に近寄っていき人を呼んだ。頭に鉢巻をした男がや ってくる。 「なんだよ。うっせえな」 「船長と話がしたい」 「はあ? んなのできるわけねえだろうが。船長はお忙しいんだよ」 「それでは、船長に扮しているアルビオン王国のウェールズ皇太子と話がし たい」 しばしの間、静寂に包まれた。 「なんだってえ!」 「ちょっとそれ本当なの!?」 「あらあ、ルイズったらわたしのダーリンの言葉を疑うの?」 「疑うって、そりゃ嘘とかつく男じゃないけど……て、その前になに人の使 い魔をそんな言葉で呼んでるのよ!」 「あらやだ嫉妬?」 「嫉妬って、そんなわけないでしょ!」 「だったら別にどうだっていいじゃないのよ」 「よくないわよ!」 「静かに!」 ぎゃあぎゃあ騒ぐルイズたちをワルドが一喝する。ようやくそれで静けさが 舞い戻ってきた。 「ンドゥール、それは本当なのかい?」 「本当だ。あちこちで交わされている会話から推測される。ちなみにこの見 張りの男はドレンというらしい」 男はぎょっと腰を抜かした。 その反応からそれが事実だと知れ渡った。 「なら、君」 ワルドは見張りを呼ぶ。 「こちらにおわすラ・ヴァリエール嬢はトリステイン女王陛下じきじきに任 命されたアルビオン王室への大使だ。密書を言付かっている」 ワルドがそういうとルイズは懐に隠していた手紙を出してきた。印にトリス テイン王家の紋章が刻まれている。見るものが見れば一目で本物とわかるも のだ。見張りは、すぐに飛び出していった。 しばらくするとその見張りがまた走ってもどってきた。彼は少し呼吸を整え て、こう言った。 「頭がお呼び、だ」 六人は男に案内されて船倉を出て行った。ギーシュは杖のないンドゥールの 手を取って歩いていく。ルイズは極度の緊張のためか彼のことには頭が回ら なかった。キュルケもだ。 (結構薄情じゃないか?) そう思いながらも彼は文句を言わなかった。 歩いていくと窓から甲板が見えた。そこにはワルドのグリフォン、それとタ バサのシルフィードにキュルケのフレイム、彼のヴェルダンデもいた。ほっ としたところ、視界の隅に土の塊が見えた。 (なんだあれは) そう思ったがすぐにそれを記憶の中から消してしまう。 船長室は豪華なディナーテーブルがあった。その上座に派手な格好をした船 長らしき人物が先に水晶が付いた杖をいじくっていた。なるほど、メイジで はある。だがとても皇太子には見えない。ギーシュはそう思った。 ワルドは両脇に立っている護衛らしき男たちと、船長をじっと見る。鷲のよ うに鋭い目だ。 「……上手い変装ですね。ウェールズ皇太子殿」 「ばれてしまっては下手の部類に入るだろ」 船長はため息をついた。そして眼帯やかつら、ひげをあっさり外した。 ギーシュ、彼だけでなくキュルケにルイズも驚いた。先ほどの野暮ったい男 が金髪の美青年になったのだ。 彼は居住まいを正し、堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 彼はにこりと笑って六人に席を勧めた。 「さて、それでは大使殿に用件を聞きたいところだが、その前に君たちのこ とを教えてはくれまいか?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊、隊長、ワルド子爵」 まずはそうワルドが名乗った。そして次々とルイズたちが名乗っていく。タ バサはキュルケが紹介した。 「そこの盲目の彼は、」 「わ、私の使い魔であられます。名はンドゥールです」 「ほう。船倉に閉じ込められながらも船員の会話を聞き取るとは、すばらし い耳だ。しかし、本当にそうなのか?」 「というと?」 ンドゥールが尋ねる。 「なに。どこかより我々が空賊に身をやつしているという話を聴いたのでは ないかと気になったのだ。王家の関係者でありながら貴族に寝返ったものも いるのでな」 「つまり、俺が間諜ではないかと疑っている。こういうことか?」 「そのとおりだ」 「ち、違います! こいつは本当にただの使い魔です!」 ルイズが慌てて庇うがウェールズに睨まれると言葉が止まってしまった。美 形の好青年であるが、そこは最後の皇太子。誇り高き獣を思わせる雰囲気を 身に纏っている。 「それで、どうなのかね?」 「違うといったところで信じるのか?」 「いや、すまない。それはできない」 鳥肌が立ってしまいそうな威圧感。ギーシュはそれを向けられていないにも かかわらず、身体の震えが止まらなかった。仮に彼が対象であれば無実であ ろうと首を縦に振ってしまうだろう。 ンドゥールは迷っていたが、やがて名案でも思いついたのか人払いを頼んだ。 とはいえそれはルイズたちだけをである。 「それでは出て行ってくれ」 五人はすぐに追い出された。 部屋の外に出てギーシュはまず。ルイズに尋ねた。 「彼は何をする気なんだい?」 「知らないわ」 ルイズは心配なのか落ち着かなく何度も船長室の扉を見る。 中からは怒鳴り声やら何やらが聴こえてくる。そばに見張りの船員がいなけ れば開けてしまっていることだろう。 しばらくし、扉が中から開けられた。ンドゥールだった。 「無実は証明できた」 「そう。よかったわ。でもなにやったのよ」 「個人的秘密だ」 六人は再び席に着く。ウェールズはえらく疲れた様子で深呼吸を繰り返して いる。一体なにをしたんだとギーシュは背筋が寒くなった。 ウェールズが気を取り直したのか、衣服を正してルイズを見た。 「それで、密書とは?」 ルイズが懐から手紙を取り出した。それを持って恭しく近づいていくが途中 で立ち止まりこう尋ねた。 「その前にウェールズさま、影だということはありませんか?」 「ああ違うが、こっちが最初に疑ったからな、証拠をお見せしよう」 彼は自分の薬指に光る宝石を外してルイズの指にある宝石に近づけた。二つ の宝石は共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹。君のそれはトリステインに伝 わる水のルビーだろ。これは風のルビーだ」 「大変失礼をばいたしました」 ルイズは一礼をして手紙を差し出した。 ギーシュはこれで任がほとんど終わったのだなと思った。あとは皇太子より 手紙をかえしてもらい、帰るだけだ。襲撃されたりすることもあったがほと んど何事もなく終わったのだ。思い返せば、何もしなかったなあ。ギーシュ はぼんやりと思った。 「事情は了解した。あの手紙はなにより大事なものだが姫の望みは私の望み。 しかし、今この場にはない。面倒だがニューカッスルの城にまでご足労願い たい」 ギーシュはまだ手柄を立てられるという喜びとまだ終わらないのかという残 念と二つの感情に気づいた。矛盾するそれらはこれから先、彼がどういった 方向に進むかを決める標になる。 ただの貴族か、ただじゃない貴族か。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1847.html
『――――つの・・・・さ・・・ペン・・・・の・・・・・』 全身を焼き尽くす・・・・否、溶かしつくす熱は急激に全身に回り 視界が崩れ、『オレ』が崩れ、支えを失って地面へと落下する。 受身も取れずに転倒したというのに大した音はしなかった。 地面につく頃にはもう殆ど『オレ』は失われて、石畳に落ちたのはオレの気に入りの厚みのある洋服ばかり。 いつもなら膝だってつかないからめったに汚れる事は無いそれ。 土埃まみれなんて我慢ならない!けど、今はそんな事考える余裕は一切無し。 熱い。熱い。熱い。消えていく、オレは死ぬのか?嘘だろ?オレは強かった。オレたちは! 『祝福を・・・・・・使い魔と成せ・・・・!―――――』 いつだってワンサイドゲームだった。オレたちが殺して、死ぬのは向こう。 膝だってつかなかった。怪我だってしなかった!オレの仕事は『引き込んで』、 訳もわからず困り果てる相手を『殴り倒し』『切り刻む』――――こんなんじゃない! 熱い!熱いッ! 熱はやがて脳味噌を蹂躙して、オレの思考は意味を成さなくなった。 ただ熱いだけの苦痛は頭部で遊びまわるのに飽きたのか、やがて左手に集束した。 なんだよ・・・・左手はさっき、溶けただろ・・・・・もういいじゃないか、やめてくれても・・・・ 「もう!あんた、何時まで寝てるのよ!?起きなさいよッ!」 「ふぐあッ」 何故か顔を赤く染めて怒り狂う少女に、 こめかみを思い切り蹴りぬかれ(トゥキックだ畜生)オレは視界を取り戻した。 本日は晴天なり。石畳なし。ウィルスなし。これはなんだ? 「なんだってこんな平民なのよー!」 わっと沸くガキどもの笑い声は遠い昔に置き忘れてきた『平和』ってヤツそのもので、 オレはますます意味がわからなくなる。 さっきまでギンッギンに痛んでた左腕をひょいととられ、 ほう、ふむ、とか言いながら眺めるオッサンが気持ち悪かったからとりあえずぶん殴った。 何なんだ、はこっちの台詞だ! 此処は何処だろう? ピンク頭の小娘をさんざっぱら笑った(平民がどうとか)ガキどもは、ふわふわと浮いて去っていった。 近くにスタンド使いが居るのか?モノに空を飛ばさせる能力なのか? 相手は何処に居るんだろう・・・・危険かもしれない・・・・状況がわからなさ過ぎる。今は。 「さっきから何をぶつぶつ言ってるのよ。」 「なんだ、まだ居たのかお前。鏡持ってるか?」 「口の利き方がなってないッ!」 痛ッ 痛い・・・・畜生、何だお前、プッツンしてるんじゃないのか。急に引っぱたくなんて 「何か言うならハッキリ言いなさいよ。」 「何も言ってません。すみません。」 五月蝿いな、口に出る癖は直した方が良いってのはわかってるさ。 だけど自分の能力を長々説明したり、攻撃方法を解説したり、皆似たようなもんだろ。 痛いのはもうたくさんだから口に出ないよう慎重に思考する。 周りのガキがふよふよ浮いてるってのに。この小娘、異常に気づかないのか? というか・・・・・・ 「お前は浮かないのか?」 「五月蝿いわね!」 痛ァッ 逆の頬にビンタを食らった。何なんだ。もう嫌だ。ギアッチョみたいなヤツだ! ああ、ガキの、しかも女に二発もビンタを食らうなんて、仲間に知られたら笑われる―――― ――――それどころじゃないだろ。『死んだ』んだ、オレ。笑われるのは間違いないが・・・・・・ 『死んだ』、はずだった・・・・ 少しばかり呆けていたら、いつの間にか屋内に居た。 あの小娘に手を引かれて連れてこられたような記憶が、ぼんやりとある。 ということはアイツの部屋かな。広くって、やたらと豪華だ。 そしてご本人様はオレの前で、椅子に座って、ふんぞり返ってオレを見・・・・・ 「やあーっと正気に返ったみたいね。急に静かになったと思ったら、ぴくりとも動かなくなるし」 「あ、ああ・・・・」 「いい加減名前くらいは教えなさい。呼ぶのに困るし。別に私がつけるんでもいいけど・・・・」 「イルーゾォ。」 「そう。」 小娘はつまらなそうにふんと言う。(名前をつけたかったのか?ごめんだな。 少女趣味なヤツをつけられたらたまらない――――『イルーゾォ』より少女趣味ってのは中々難しい気もするが) 「じゃあイルーゾォ、なんでアンタなのよ。ねえ?なんで平民のアンタが来るの?」 「平、民?」 「貴族なら良いってもんでもないわ!あたしは猫とか梟とか、出来たらドラゴンとかが良かったの! 『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出すなんて聞いた事ないし、どれだけ笑われたか――――」 「『サモン・サーヴァント』ってスタンドなのか。動物を呼び出してどうするんだ?大体何に使うんだ」 「よくわかんないけど、平民よりは動物のがマシよッ!アンタみたいに口答えしないでしょ」 暗殺者を捕まえて猫の方がマシとはよく言ったもんだ。 よっぽどオレの便利なスタンドについて説明してやろうかと思ったが、それより大事な事がある。 「お前の『サモン・サーヴァント』で、オレは此処に来たんだな?間違いないな?」 「ルイズ。それかご主人様って呼びなさい、無礼よ。」 高慢ちきな小娘だ。ご主人様?誰が呼ぶか、意味が分からない。 しかしコレで原因はハッキリした。無差別なスタンド攻撃でつれて来られたんだな。 何故か無傷なのだってスタンドの効果かもしれない。『完全な状態で呼び出す』だとか―――― 「何にせよ、オレは幸運だったし、それはお前の・・・・痛いすみません・・・・ルイズのお陰なんだろう。 ありがとう、だから、帰してくれ。」 オレは無傷だ。スタンドだって(まだ試してはいないが)出せるだろう。まだ『側に居る』感じがある。 実力ではなく『幸運で』だが・・・・戦いを乗り越えたオレには知識がある。 パンナコッタ・フーゴの危険なスタンド、新入りの機転や、『覚悟』!伝える必要がある! あいつ等はやはり危険なんだ。ホルマジオも死んだし、『オレだって死んだようなものだった』 イタリアに帰って、仲間に伝えるんだ! (仲間達はろくなヤツじゃあないが、オレは気に入ってるんだ。もう、ただの一人だって死んで欲しくない) 「場所がわからないなら、イタリアだ。イタリアならこの際何処だって」 オレはがっつくみたいに詰め寄って、小娘はそれに驚いて仰け反る。 申し訳無いけど時間が無いんだ。オレからの連絡が途絶えれば、次の追っ手があいつらの元に向かうだろう。 「・・・・む、無理よ。『サモン・サーヴァント』は召喚するだけで、帰すなんて出来ないわ」 冷水をブッ掛けられたみたいだった。 なあ、なんだって? 「それに出来たってね、帰しやしないわ。あんたは私の使い魔だもの。あたしの――――何処行くのよ。」 「・・・・洗面所なら、鏡はあるよな。」 「何なのよ鏡鏡って。いいけど。帰ってきたら身の回りの世話をしてもらうから!」 「嫌だね」 最悪だ。最悪の気分だ。もう一度死んだみたいに。 ふらふらと洗面所らしき場所を見つけ、「『マン・イン・ザ・ミラー』。オレだけを許可しろ」 鏡の世界へ潜り込む。 左右対称の『向こう側』でオレはルイズの居た辺りに戻り、少し狭いがふかふかのベッドに潜り込んだ。 (正確にはゾンビみたいな顔をしたオレを見て、マン・イン・ザ・ミラーが気を利かせて掛け布団を持ち上げてくれたんだが) ああ、此処はいい。五月蝿いやつの居ない、オレだけの世界だ。 ――――でも、喧騒も懐かしかった。帰りたい・・・・仲間の元へ・・・・ 今日は眠ろう。そして明日、何としても帰る方法を突き止める。 死ぬのは怖かった。泣くほど。(ギリギリで泣かなかったと思う。多分。暗殺者は泣いたりしないだろ) でも仲間達が死ぬのはもっと怖い。ソルベ達が死んだときの2.5倍、ホルマジオが死んだときの5倍は怖いだろう。 だから帰るんだ。 あんな強敵が相手じゃ謀反は失敗するかもしれない(急にネガティブになるのはオレの悪い癖の一つだとリーダーは言う。) でも、最悪そうなっても、『マン・イン・ザ・ミラー』を慎重に使えば仲間を逃がす事が出来るだろう。俺は帰らなくては―――― 「でも、もしも?」 嫌な事ばっかり思い浮かんで目頭が熱くなった。 熱くなっただけだぜ。泣いてない。暗殺者が泣くわけないだろ・・・・・・ 「わ、私の使い魔が消えた!?」 ルイズは鏡の外で大騒ぎしていたが、その声は届かない。 鏡の中のイルーゾォは、当分その姿を表す気は無いようだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1241.html
部屋に戻るとグェスが床に正座して待っていた。どんなふうに声をかけたものかしらね。 「あのね……」 わたしの言葉を打ち消すように、 「ごめんなさい!」 また下手に出てきたものね。こいつのことだから適当な言い訳で取り繕うと思ったわ。 「ごめんなさい……」 あ、涙。これじゃ怒ることもできやしない。 グェスは正座から頭を下ろし、そのままの姿勢でわたしににじり寄ってきた。 「あたしって臆病なのよ。ホントは逃げないでルイチュと一緒に戦いたかった。でも足が逆らうの」 とうとうしゃくりあげ始めた。 「いざとなると腰が引ける。逃げたくないのに逃げちゃうの」 すすり泣きが号泣へ。顔中が涙と鼻汁で汚れている。で、わたしにすがり付いてくる、と。汚れるわよね。 「ここに来る前、あたしには大親友が一人だけいたの。でも彼女はあたしを置いて逃げていった」 汚れるから離れなさいとか言ったらさすがに薄情かな。 「理由は分かってる。彼女はあたしという人間を知っていたもの。いざという時に逃げ出してしまうあたしという人間を」 これは本格的にかわいそうになってきたわ。 「使い魔失格ってのは分かってる……でもお願い。あたしを捨てないで。あなたに捨てられたら生きていけない……」 どうやら本気で詫びを入れているようね。これなら許してもいいかな。 「あのね……」 「それでね!」 許そうとしたんだけど、またしてもグェスに止められた。 なんなのよ、あんたはわたしに許しの言葉も言わせないつもり? 「泣いて謝るだけで許してもらおうってのは都合よすぎじゃない? 親分見捨てたんだからお詫びを形にしなくちゃいけないと思ったのよ」 グェスはベッドの下の隙間に手を差し入れた。 わたしほどではないにしても、彼女だって細い腕だから、差し入れることはとっても簡単。 ただ、それを抜くのに往生していたみたい。彼女は肩を揺すり、膝を曲げ、腕に力を入れて、大きな袋を取り出した。 やっとの思いで取り出したる麻袋の尻を持ち、逆さにして揺すりあげた。 中から出てくる統一感の無い物の数々が、整頓の行き届いた部屋の一角にうずたかく積みあがっていく。 「これをルイチュにプレゼントするわ。ね、ルイチュ。あたしを許してほしいの」 「これを……わたしに?」 一振りの剣、凝った装飾のなされた香水の壜、大ぶりの瑪瑙を飾った高そうな指輪。 初見では統一感が無いという感想を抱いたけど、あれは間違いだった。ある種の共通点はあった。 それは、とても高価そうなな品々だということ。わたしのお小遣いじゃ手に入りそうにないものばっかり。 迷宮の奥に配置されたチェストの中にこれほど相応しい物もそうないでしょうね。 「すごいじゃないの!」 「へへっ、そうでしょ。許してくれる?」 グェスはお金を持っていなかったはずよね。つまり、これはグェス自信が生成したということになるじゃない。 ただの平民とは思えない雰囲気がある女だったけど、まさかこんな力を持っていたなんて! 「そうね。これなら許してあげるわ。こんな力があることを隠していたのは腹立たしいけど」 「隠したりするわけないじゃない! 聞かれなかったから黙っていただけのことなのよ」 一息で鼻汁をすすり上げた。流れていた涙はすでに乾ききっている。切り替えの早いこと。 「先住の魔法ってやつなの?」 「先住の魔法? たぶん違うと思うよ」 へぇ、違うんだ。ミキタカやぺティみたいなものかと思ったんだけどな。 「この力はね、あたしの心の力なの。『グーグー・ドールズ』って名前をつけたんだ」 心の力、ねえ。なんだかミキタカが食いつきそうな胡散臭い話。 ま、原理はどうでもいいわ。わたしは研究者じゃないもの。 それよりも、無能だと思っていた使い魔の有能っぷり……いや有能なんて生易しいものじゃないわ。 これはもう万能と言っていい能力じゃないかしら。 だってすごいじゃない。好きな物が作り出せるのよ。錬金の魔法なんて目じゃないわ。 「ほら、これが『グーグー・ドールズ』。かわいいでしょ」 力なんて言うから魔法みたいなものを想像していたけど、どっちかというと使い魔だったみたいね。 グェスが掌を広げると、そこにはグーグーと鳴く小動物がしゃがんでいた。 人の形をしているけど、指先に生えた鉤爪、まばらに生えた乱杭歯、何より大きさが人間ではないことを証明してた。 かわいいという言葉が大きさを指してのものだとしたら、確かにこれは間違いなくかわいいサイズね。グェスの掌ほどしかない。 動きを指してのものだとしたら、かわいいと言えなくもないものでしょう。グェスの指にしがみつく仕草は小さなお猿さんみたい。 造作を指してのものだとしたら、グェスの趣味はどうかと思う。だってツギを当ててなんとかこさえたお人形みたいなんだもの。 しかもちょっと向こうが透けて見えてるし。心の力っていうのは幽霊か何かなの? 「これを見せたのは大親友とあなたの二人だけよ。ルイチュだから見せたの」 でも、幽霊だの不細工だの言えば気を悪くするだろうし、わたしは曖昧に頷くだけだけど。 「あたしの大親友も心の力が使えたんだ」 「へえ」 水族館っていうのは研究所か何かだったのかしらね? 「パワーは向こうの方が強かったかもしれないけどさ、便利さとプリティーさなら圧倒的に勝ってたと思うのよね」 「そりゃ負けるわけないでしょうね。好きな物を生み出す力なんておとぎ話でしか聞いたことがないもの」 「は? 好きな物を生み出す……? 何のこと?」 怪訝そうなグェスの顔を見て、今度はこちらが怪訝顔。何のことってあんたの能力でしょ。 「だって、これ全部あなたが作り出したんでしょ」 「ちょっとルイチュ勘弁してよー。作ったりできるわけないじゃない。これ全部かっぱらってきたのよ」 「かっぱら……え?」 わたしの耳ってばどうかしちゃったらしいわね。何だかとんでもない幻聴が聞こえたみたい。 「ごめんなさいグェス。もう一度言ってもらえない?」 「作ったりできるわけないじゃない。これ全部かっぱらってきたのよ。これでいい?」 かっぱらう……ええと、わたしの知らない意味があったりするのかも。 そうよね、泥棒をしただなんて疑ったりしたらグェスに失礼だもんね。 「ちょっと勘違いしちゃって。かっぱらうって言葉に聞き覚えがなかったものだから」 「ルイチュって育ちがいいのねェ。さっすが貴族。かっぱらうってのはギる……盗むってことよ」 盗む……ええと、わたしの知らない意味が……無い。 「……その盗むってのは比喩的な表現なのよね? 何かのメタファーとか」 「何それ? あたしが言ってるのは直接的な意味よ。他の部屋から色々持ってきてやったの」 あ……眩暈。 「グーグー・ドールズの力はね、物を生み出すんじゃなくて物を……」 「ちょっと黙りなさいグェス」 ああ、よくよく見れば見覚えのある品がいくつかあるわ。てことはやっぱり……。 キッと睨みつけてやったけど、グェスはどこ吹く風でグーグー・ドールズの顎を撫でていた。 気軽にとんでもないことしてくれたわね。どうしようこの高そうな物の数々。 鍵と……なんて言ったらいいのか……包み? 中身は分からない。ちょっと気になるけど開けるわけにはいかないでしょうね。 香水の壜? 香水っていうとモンモランシー? なんかこれ……持ってきたらマズイものだった気がするんだけど……ものすごく。 こっちは皮の袋ね。中身は金貨がたくさんってまんまじゃないの! 指輪、ピアス、チョーカー、ブレスレット、各種貴金属。また換金性の高い物ばかり……。 これは随分古ぼけた剣だけど、この学院に剣提げてるメイジなんていたかな。 衛兵から掠め取ってきたのかしら。とりあえず抜いてみた。 「おでれーた。お嬢ちゃんあんた」 鞘に入れなおした。恐る恐るもう一度抜いてみる。 「『使い手』か。人は見かけに」 また入れた。これってもしかしなくても……。 「インテリジェンスソードじゃないの!」 「さすが魔法の世界ね。剣までしゃべるなんて」 「そうじゃなくて! 魔法のかかった剣ってのは高いのよ!」 「ボロボロじゃない」 「ボロでも高いの!」 「マジ? そりゃ拾いもんね」 「拾い物じゃなくて盗品でしょうが!」 「同じ同じ」 「違うわあああ!」 わたしは興奮している様を全身で表現していたけど、グェスにはたぶん通じていない。 グーグー・ドールズと並び、首を傾げてわたしを見てる。なんでそんなに慌ててるの? 嬉しいの? って感じで。 「あのねグェス。平民が貴族の物盗んだりしたら殺されても文句言えないのよ。分かる?」 「バレなきゃ罪にもイカサマにもならないでしょ。それに盗まれたのは貴族のボンボンばっかだし」 なにこのかっ飛んだ遵法意識。平民とはいえ、同じ種類の生き物と話している気がしない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/902.html
姫さまは顔を真っ赤にして、両手でお尻を押さえていた カワイイ!コレはもう犯罪レベルね! ・・・犯罪って、姫さまを言葉であんなにも辱めて 重罪? 極刑? 死刑? 爵位剥奪? 「も、申し訳ありません!使い魔の不始末は、わたしの不始末です! っていうか、あんたもほら!謝りなさいよ!」 「い、いいのです。忠誠には報いるところがなければなりませんから」 体を小刻みに震わしながら、姫さまが頷いた。 そのとき、ドアがバターンと開いて、誰かが飛び込んできた。 「きさまー!姫殿下にー!ナニを言ってるかーっ!」 ギーシュ!って、此処は女子寮よ 「なんだ、お前」 プロシュートはギーシュを睨みつけた 「ギーシュ!あんた!立ち聞きしてたの?今の話を!」 しかし、ギーシュは完全に無視してまくし立てた 「薔薇のように見目麗しい姫さまの後をつけて来てみればこんな所へ・・・ それでドアの鍵穴からまるで盗賊のように様子を伺えば・・・ 平民が姫さまを言葉責めに・・・」 ギーシュは薔薇の造花を振り回して叫んだ 「決闘だ!バカチンがぁああああ!」 プロシュートは、ギーシュの顔に肘を叩き込んだ バキィ ドグシャー ドカッ ボコボコボコ 以前、中庭で見た光景がそのまま再現される 「ひ、卑怯だぞ!こら!いだだだ!」 「どうする?こいつ、誰にも話しちゃいけねえんだろ!口封じしとくか?」 この男が言うとシャレにならない、慌ててプロシュートを止めに入る 「ちょ、ちょっとまって!」 その隙をついてギーシュは立ちあがった。 「姫殿下!あなたのケツを・・・じゃない、その困難な任務、是非とも このギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 ええええええええええ! 何を言ってるのギーシュ? それにしても、頭巾を深く被った姫さまを遠目から見つけるなんて こいつ・・・侮れないわね
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1282.html
ルイズの話しによれば今日は学院全員の生徒は部屋にいなくてはいけないらしかった。 理由は聞かされていないそうだ。 こんなことは初めてだとルイズは言っていた。心当たりも無いらしい。私にはあるがな。 というかここで働く平民なら大抵知っているだろう。失踪した教師と生徒、現場と思われるところにあった大量の血溜まり。 だれがどう考えても事件じゃないなんて言える奴はいないだろう。 そして何らかの事件を考慮して生徒たちが巻き込まれないように隔離しとくのは当然かもしれないな。 この学院にいる生徒はみんな貴族だ。何かあってからじゃ遅いからな。 でもやっぱり平民は普通に仕事してるんだよな。平民だからどうなっても良いんだろう。 平民なんて一人二人いなくなったって補充できるからな。 何処からか鐘の音がなる。なんだ? 「昼ごはんの合図よ」 それが顔に出ていたのだろう。ルイズが教えてくれる。 「こんなの今まで鳴ったことあったか?」 「無いわよ。今回はみんなが部屋に篭ってるから知らせるために鳴らしてるの」 「ふ~ん」 「納得してないで行くわよ」 ルイズがドアを開けながらこっちに言ってくる。 それに従い私たちは食堂へ向かった。 アルヴィーズの食堂。朝食、昼食、夕食と、学院にいる教師、生徒全てが食事を取るところだ。 アルヴィーズというのは小人の名前で、壁際には精巧なアルヴィーズの彫像が並んでいる。夜中に踊るらしい(怪談だな)。 いつも私はここでルイズの椅子を引き、床に座らされ、ルイズが出す餌を食べるのだ。もっともその後厨房でちゃんとした食事をとるが。 そして食堂に着いた私は何時も通りルイズの椅子を引く。 そして何時も通り床に座る。素早く、そして自分から座っておけば文句を言われることはない。 椅子に座ったルイズからいつもなら餌が渡される。そう、いつもならだ。 しかしその日は何時まで待っても餌は渡されなかった。さすがに1日食事を抜いたぐらいで死にはしないが腹は減る。 餌でもないよりはマシだ。腹の足しになるからな。 だというのに渡されない。さすがに焦れる。 そして催促しようとしたとき、 「今日からあんた、テーブルで食べなさい」 ルイズがそう言ってきた。 は? 初めは意味がわからなかったがわかると同時にルイズのほうを向く。 ルイズは頬を赤くしてそっぽを向いている。 何だこいつ?熱でもあるのか? 「急にどうしたんだ?どこか調子でも悪いのか?」 しかしここに来るまでにそんな様子はなかった。 もしかしたらさっき聞こえたのは幻聴だったのかもしれない。 だってあのルイズがテーブルで食べろだなんて…… 「べ、別に調子は悪くないわよ。いいから。ほら、座って。早く」 マジで誰だよこいつ。ルイズじゃないのは間違いない。 いや、ルイズなんだろうが、行動があまりにもルイズらしくない。床でありがたく思えとか言ってた奴が椅子に座って食事しろだなんて言うはずが無い。 が、椅子に座ってもいいならありがたく座らしてもらおう。 そう思い椅子に座る。でもやっぱりなんとなく怪しいのでルイズとは距離を取れるだけ取れるだけとる。そんなに離れられないがな。 やっぱり怪しいものは怪しい。 それで、だ。 「私の食事は何処だ?」 椅子に座ったが見当たらない。 「何言ってるの。目の前にあるじゃない」 「は?」 こいつはマジで何言ってんだ? 「もしかして、これらか?」 「だからそう言ってるじゃない」 目の前にあるのは貴族の食事だった。ルイズは椅子に座り貴族と一緒の食事をとれと言っているのだ。 今度こそルイズを見たまま固まってしまった。 誰じゃ!? 今の心境はまさにこんな感じだな。 ルイズじゃない。確実にルイズじゃない。ルイズの形をした何かだ。 自分が知っている人物が突然予想外の言動を取り出したとき一番初めに感じる感情は疑惑だと私は思っている。 そしてその言動が理解できればそれは納得できる。 しかしできなければ次に感じる感情は恐怖だ。得体の知れない未知に対する恐怖。 今私はほんの少し、ほんの少しだけだが恐怖を感じていた。 こんなときはデルフの軽口が無性に聞きたいぞクソッ! こんなことならさっさと投げたデルフを回収しとくんだった!明日まで放っておくつもりだったが食い終わったら回収しとこう! どうして俺はあんなことだけでデルフを投げちまったんだよクソッ!あ~イライラする! 「おい、ルイズ。そこは僕の席だぞ。使い魔を座らせるなんて、どういうことだ」 突然身に覚えが無い声が聞こえ現実に引き戻される。 声のした方向を見るとそこには少しぽっちゃりした少年がいた。 見たことあるな。たしか、マリコルヌとかいう奴だ。 「座るところがないなら、椅子を持ってくればいいじゃないの」 ルイズはマリコルヌに向かって言い放つ。 いや、普通平民で、しかも使い魔がここに座ること自体がおかしいんだからマリコルヌの言ってることは正論じゃないか? 「ふざけるな!平民の使い魔に座らせて、僕が椅子をとりに行く?そんな法はないぞ!おい使い魔、どけ!そこは僕の席だ。そして、ここは貴族の食卓だ!」 マリコルヌが胸をそらし俺に向かって言い放つ。 確かに言ってることは正論だ。いつもの俺なら従うさ。でもな。 立ち上がりマリコルヌの頭を掴む。 俺は今苛立ってるんだよ。 「マリコルヌだったよな。今からいう場所に走って行ってこい。剣があるはずだから取って来るんだ」 「な、なんで僕がそんなことを……イタタタタタタ!」 『手』を発現させ頭を締め上げる。 「行ってくるよな?」 「い、行かせて貰います!だからやめてー!」 それを聞き手を話す。そしてデルフがある場所を喋る。 「早く行って来い。そうすれば少しはやせるぞ」 そういって背中を蹴ると、泣きそうな顔になりながら走っていった。 ふむ、少し落ち着いたな。 しかしこれって完璧な八つ当たりだな。……まあいいや。八つ当たりなんてギーシュにしたことあるしな。 あのときに比べれば安いものだろう。 そう思いながら私は再び席に着いた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1074.html
時には昔の話を トリステイン魔法学院女子寮、ルイズの部屋には奇妙な『穴』がある。 その穴は細長く、無理矢理こじ開けた感が否めない穴だった。 だが、そんな穴なのに辺りに割ってできたような破片や瓦礫などは見つからない。 そのかわり淵はジッパーのような細やかにギザギザした穴になっていた。 まるで『突然そこにジッパーが現われたように』。 これを作ったのはゼロのルイズの使い魔。話は彼が召還されてから決闘を行って、 5日後の事だった。 「すまないが寝床を提供してくれ。」 ブチャラティは召還された日は座りながら考え込んでいるうちに寝てしまったので 寝床の事を考えてなかった。(5日間は医務室で気絶していたのでこれも除外。) 「何言ってんの?あんたはもちろん床。」 ――――――時が一瞬止まる。 「えと・・・その、今なんて言ったんだ?聞き間違いかな? 今「床」と言ったように聞こえたが・・?」 「言葉どおりよ。『もちろん床』と言ったの。アンタね。使い魔の、それも平民の分際で まともな寝床なんてもらえるわけないでしょ?スペースがもらえるだけマシだと思いなさい。」 ブチャラティは無表情で、しかし明らかに怒りの心境をオーラとして出しながら言う。 「お前・・。呼び出しておいてコレはないんじゃあないか?」 「しかたないでしょ!?まさか人が呼ばれるなんて思わなかったんだから! アンタ自分の立場がどれだけ特殊かわかってる!?人間の使い魔なんて多分学校始まって以来よ!対応しようにも私がついていけないんだから!!」 「・・確かに!もっともな意見だ・・・。」 あっさり納得する。彼は割り切った考え方ができるのだ。 「まあ、どーしてもって言うなら毛布の一つくらい貸してやっても・・。」 ジィーーーーッ。 「床にジッパーをつけましょう。この中はとくに寝心地が悪いわけでもないし、 野宿とか非常時の仮眠をするときは大抵コレを使う・・。」 ブチャラティの能力がルイズの自尊心をみごとに打ち砕いたッ!! もっともこれは本編ではココ・ジャンボのミスター・プレジデントのおかげで 必要なかったのは言わずもがな。 「というわけで…。『コイツを寝袋代わりに使って睡眠をとる。』これで寝床は 確保した…。ということになるかな。」 ルイズは赤くなって言い放つ。 「あっそう!!もういい!わかった!じゃもう寝るから!おやすみ!」 「ああ。ゆっくり休んでくれ。」 ブチャラティは結構マイペースであった。いや、ほんのちょっとズレているのかもしれない。彼はまじめで頭もいい奴だが。 とまあこんな経緯でブチャラティは『床寝袋』を確保したのだが、実はここまでの話 全くの無駄無駄である。だからここで本編に戻らせていただく。 キュルケの部屋から一本足にされたルイズが壁を伝って、ニーソックスの線のところで 切り離された足を肩にかついだブチャラティの後を追う。 「そろそろ戻しなさいったら!!」 「部屋に戻ったらな。で、ガミガミ言う前にオレの言い分を聞いてもらってからだ。 でないとお前、足取り戻した途端殴りかかってきそうだからな。」 ルイズは特に意識してなかったが、本能はやろうとしてたので言われてギクッとしていた。 「う、うるさい!アンタが原因でしょ!!」 「…だからオレはフレイムがつけてくるのが気になって行動をしていただけだ。」 「それがどう転んだらあんないかがわしい展開になるのよ!」 部屋の中で今なお論争は続く。 「なぜ監視していたか聞きに言っただけだ。口を封じたのも色々めんどくさくなったんで 封じただけだ。本当だ。」 だがルイズは全然信じない。 「そそそんな、そんな都合のいい言い訳を!」 頭に血が上っていて冷静さが微塵もない。よほど怒っているようだ。 「言い訳じゃあないさ。誓ってもいい。」 「ウソつくんじゃあないわよ!!このサカリのついた犬!!」 ブチャラティは疲れた顔を見せる。 (ウソを見破るのは得意だが自分がウソをついてないと証明するのはむずかしいもんだ。) 「私が今まで間違ってたわ…。アンタを人間扱いすること自体がそもそもおかしかったのよ・・。」 そして引き出しの中から鞭を出した。 「ののの、野良犬ならそれらしく扱わなきゃね! 今まで甘かったわ…!」 ふと、ブチャラティも真顔に戻る。 「おい。まさかその鞭でオレを叩くのか?」 「ええ・・!ご主人様をおいてツェルプストーの女に尻尾を振るようなダメ犬にはッ! 躾をしなくっちゃ・・!」 (こいつ目がイッてるぞ・・。そんなにキュルケと一緒にいたのが気に入らないのか・・?) 怒りの炎をまとったかのごとく鞭を振るうッ!! 「この夜遅くまで遊んでる堕落した野良犬がァーッ!!」 バシンッ!! 「アッ!!」 その一言を放ったのはなぜかブチャラティではなくルイズだった。 「いたい!すごくいたい・・・!」 「そりゃあ本気で鞭で叩けば痛いだろうさ。本気で『自分』を叩きゃあな。」 鞭打ちの痛みでルイズの怒りはすっかり冷め、表情が歪み、泣きべそをかき始める。 「いたい・・。いたいよぉ・・・・。」 ルイズの痛みは足にある。だがさすろうにも『その足はブチャラティが持っているのだ』。 何をしたのか?ブチャラティは叩かれる寸前さっきルイズから切り離したルイズの右足を 盾にしたのだ。 スティッキィ・フィンガースで切り離した物はまだ『切断』した状態ではない。 体のパーツなら叩けば無論持ち主にダメージが及ぶ。 だからルイズが鞭打ちのダメージを喰らい、今に至っているわけである。 「痛いか?痛いよな。お前はオレにそれを味あわせようと叩いたんだからな。 だが自分で嫌だと思うような事は人にやらせるモンじゃあない。」 ブチャラティがルイズに近づき目を見る。 「もう一度言う。オレは『無実』だ。なのにお前は罪があるか確かめもせず鞭で たたくつもりだったのか?その『痛み』もわからなかったのに?」 ブチャラティが足をルイズに投げてやる。 「もうこんな事するんじゃないぜ。…頭は冷めたか?今度はオレが聞く番だな。 なんでキュルケと一緒にいてそんなに怒ったんだ?」 ルイズが涙を拭いながら言う。 「…キュルケと私の因縁は個人的な因縁に加え、一族からの因縁があるのよ。」 ルイズの話を詳しく聞くと、キュルケたちツェルプストー一族は隣国ゲルマニアに属し、領地を隣り合うトリステイン所属のルイズの一族と長年にわたり、領地や恋人を巡って殺したり殺されたりした仲らしい。 「今でこそ血みどろの仲とまではいかないけど、それでも因縁って奴は消えてない。 私自身もキュルケは気に入らないしね。隙あらば私が『ゼロ』なのをバカにしてくるし、 なにかと自分が優秀なのを鼻にかけるし、それに・・。」 ルイズは明らかに自分の貧弱な胸をみている。 「それで、悔しかったと言うわけか?」 「だって!キュルケにこれ以上何か弱みを見せたらヴァリエール家の恥だし私が黙ってられないもの! これ以上水一滴、砂一粒だって取られてたまるもんですか! ご先祖様に申し訳がたたないわ!」 ルイズは足を繋ぎ合わせながら言う。 「怒りで周りが見えなくなってたのは認めるわよ・・。でも私はキュルケにだけは絶対 負けたくない!だからアンタも・・・・キュルケの物なんかになっちゃダメ!いいわね!?」 ルイズの顔がどこか赤くなった。今の自分のセリフが言ってから恥ずかしくなったらしい。 ブチャラティが言う。 「さあ?どうしようとそれはオレの自由のはずだ。じゃあ寝るぞ。」 『床寝袋』の中に入ろうとする。 「ってその前に!まず着替え手伝なさいよ!」 「一人でやれッ!!」 ベッドの中でルイズが考える。 (人の『痛み』・・か。この話をした時ブチャラティ真剣に怒ってたみたい・・。 何かあったのかな?) ルイズがブチャラティのほうを向く。 (前々からアイツのことは気になってた。おとなしいだけのただの平民かと思ってたら メイジとも対等に戦うし、戦いを通じて改心させるし。…たまに優しいし。 なんか妙に人から好かれるし。) 「ねえ。起きてるブチャラティ?」 ブチャラティはまだ起きていた。 「なんだ?」 「ブチャラティ・・・私と会うまではどうしてたの・・?」 ブチャラティが少し体を起こして言う。 「何の話だ?」 「ちょっと興味が沸いたの!アンタどうもわからない所があるから! ほら!アンタのご主人様として知っておく権利があるんじゃないかと考えたのよ! ちょっとくらい話してくれたっていいじゃない!故郷とかの話でもいいし、 んもう!なんでもいいわよ!なんか話しなさい!」 ブチャラティが遠い目で天井を見て口を開く。 「話すことか・・・?」 ブチャラティは言葉に詰まった。12で殺人を犯し、その後ずっとギャングとして生きてきて、 血なまぐさい話しか持ち合わせていないので何も話せないのだ。 「…何もない。」 「ケチケチしないでよ!ホント何でもいいの!仲のよかった人の話とかでも!!」 フッと思い浮かんだのは仲間の顔。 「イタリアにいた頃の仲間の話でよければ・・・。」 ブチャラティは語り始める。明るくてムードメーカーだが『4』と言う数字が駄目なミスタの話。 頭がいいのだが一度キレだすと手に負えないフーゴの話。 気難しくて、会ったばかりの人間をなかなか信じようとしないが、 心が通じればとても心強いアバッキオの話。 頭が悪いのを気にしていたが、それでもガムシャラにがんばって自分を支えたナランチャの話。 出会って間もなかったがとても心から頼りになったジョルノやトリッシュの話もした。無論ギャングだの 生々しい殺し合いだのは極力避けた。 (今思えばジョルノのおかげでチーム全体がどれほど助かった事か・・。) ブチャラティは思い出話をしながらそんな事を考えていた。 「それでフーゴがナランチャとよく喧嘩したもんだ・・。本人に言っちゃ悪いがナランチャのほうが 17で年上なのによくチーム最年少に間違えられたもんだ。背も低かったしな。」 「そんな子供っぽかったの?」 「ああ。お前と比べれば同い年くらいに・・。」 ルイズが疑問そうに首を傾げる。 「・・・・?それじゃあ一つしか違わないじゃない。私16だから。」 「・・・えっ!?お前・・16だったのか・・?」 「なっ!!いくつだと思ってたのよ!?」 (16だったのか・・。ジョルノやトリッシュより年下だと思ってた・・。) ルイズが顔を真っ赤にして怒る。 「失礼ね!!どうせ私は背が低いわよ!胸がないわよッ!よく実年齢より年下に見られるわよッ! 悪かったわね!!」 「すまなかった・・・。」 「フンッ!その年齢より小さく見られる私と同い年に見られるなんてそのナランチャとかいう奴 一度みてみたいものねッ!!」 そう言うとブチャラティの顔が陰った。 「それは無理だ・・。死んだんだ。いろいろあってな・・。」 「え・・・?」 「だから・・・。死んだんだ。・・・もう聞かないでくれ。」 「死んだ・・・?」 ルイズは突然のショッキングな事実に少しドキリとした。 「な、何で死んだの・・?病気・・?事故・・?」 「聞くなと言ってるだろ。もう寝ろ。」 「だって・・・。」 「やかましいッ!話したくないと言ってるだろッ!!・・・もう遅いんだ。早く寝ろ。」 ブチャラティは背を向け、眠りについた。 「ブチャラティ・・・。」 ルイズは今、ブチャラティの知らなかった、弱い一面を知った気がした。 (ブチャラティって、あんな悲しそうな顔もするんだ・・・。何があったのかな・・? 私はまだブチャラティを全然知らない。まだ・・全然・・。) ルイズもまた、いつしか眠りについた。 「きゅるきゅる(以上会話終了でありますッ!!)」 「んーッ!んーッ!(実況はいいから戻ってジッパー開くの手伝いなさいよ!)」 夜はふける・・・。 第11話『時には昔の話を』 to be continued……